なぞる記2
2015年3月10日。
この日のことはすごくよく覚えている。
かっちは朝から近くの脳外科。
私は映画、【幕が上がる】の舞台挨拶を見に、新百合ヶ丘に行こうと家で支度していた。
支度が終わって外に出たら電話が鳴った。
かっちからだった。
あれ、病院終わったのかな って思って電話に出た。
かっち『なんかさぁ、なんか俺、よからぬことになってるっぽい』
ぼっち『え?病院?』
かっち『うん。そいで先生が奥様も一緒にお話を…って云ってるんだけど…』
ぼっち『今家の前だからすぐ行く!』
これくらいの短い電話。
映画に誘ってくれた友達に(ごめん!)と行けない連絡を入れ、病院に着くと待合室にぼっちで座っているかっちが居た。
コート脱ぎながら(なんだろうねぇ~)とか、極力明るく振舞った。
かっちも、(なんだろうねぇ~)と首を傾げていた。
すぐに呼ばれて、診察室に入った。
先生は、『最初に来た時にMRI撮ればよかった、ごめんなさい』とのっけから謝っていた。
どういうことだ と思って見せられた画像は、なんかもう、すごかった。
素人目で見てもはっきりと判るほどのエグい大きさの腫瘍。
3.5センチだと云われた。
え、これかっちの?今のかっちの頭の中こんなことになってるの。
やべーじゃん…。
『年齢と症状からして、多分良性の腫瘍だと思います。でも造影剤を入れたMRIじゃないとはっきりしたことが云えないので、紹介状書きます。』
と云われた。
その言葉に判り易く私たちは安堵してしまった。
だよねぇ。
だって悪性腫瘍ってことは癌 ってことだもんねぇ。
と、帰り道に2人で話していた。
こんな時なのに、かっちは『折角の舞台挨拶なのにすまんのう』と云っていた。
『変なとこ気遣うなこのバカチンが!!!』と渾身の金八先生を出したのに、かっちはあまりピンときていなかったようで、愛想笑いが酷かった。
こんなくそどーでもいいようなことまで覚えてる。
安堵はしてたけど、すっごい恐かった。
その日の日記は、ただ神様に祈ってた。
普段何も信仰していないくせに、こんな時だけどっかしらの神様にお願いしているのだ。とことん虫がいい。
その日の私は全然眠れなかったようで、追記みたいな感じでどんどん不安の言葉か書き足されている。
まるで書くことで何かを埋めるように。